Archive for 3月 2017
きみのもしもし #484
きみがまた、あそぼあそぼあそぼと言ってくる。
どうして今日はこんなに寒いんだろうね。
きみはまた一言、あそぼと繰り返す。
さて外は雨。何をしようか。
ぼくの膝にフリースを掛けると、きみもそこに潜るこむ。
肩に手を当てると、確かに冷たい。
まずは暖まろうか。
そうだ、珈琲を入れよう。
ーもしもし。
ーん?
ーもう少し暖まったらね。
そしてきみはまた、あそぼと繰り返す。
きみのもしもし #483
カフェで互いに向き合って、
きみがぼくの良いところを箇条書きにしている。
ぼくもきみの良いところを箇条書きにしている。
どちらからともなくときおり顔を上げ、
相手の表情を見る。
相手の仕草を確認する。
相手の全身を見る。
そしてまたテーブルの上の紙にペンを走らせる。
コーヒーを一口、口につけ、
きみを見る。
たくさんの箇条書きができるきみはそれだけ
ぼくを見ていることになり、
それだけ良い点に気づいてくれる良き理解者ということになる。
でも、箇条書きの数だけぼくはきみにとって良い点を多く持っていることにもなって、
さて、見つけ出すきみが偉いのか、
そもそもそれだけの良い点を持っているぼくが偉いのか。
少しの間、そんなことを考えていた。
「もしもし、また理屈っぽいこと考えてたんでしょっ」
顔を上げたきみが笑っていた。
きみのもしもし #482
ー今夜どう?
と、きみから誘いのメッセージ。
いいよ。
ー面白い催し物があるの。
どんなものなのかを説明してくれるきみ。
あれ?それってさぁ。
ーもう行ったの?
昨日の昼間に行ったよ。
ーどうして一人で行くの?
そう言われると確かにそうだ。
なんとなく行っただけなんだけど。
でもさぁ志向が同じなのが確認できてよかったね。
苦肉の返答。
ーもしもしっ。
いや、その、あの。
もう一度行こうかな。行きたいな。
うん、今夜きみと一緒に行きたいな。
きみは「仕様がない人ね」と、
笑った顔の絵文字の付いたメッセージを送ってきた。
きみのもしもし #481
「もしもし、やっぱりね」
「内緒にしてたのは、これね」
「もしもし、内緒にする意味、あったの?」
「ぜんぜん、意味なかったでしょっ」
「もしもし、聞いてる?」
矢継ぎ早にきみは言葉をならべる。
ぼくは悪びれもせず、
きみのもしもしの回数をカウントしてる。
きみも途中から笑ってる。
そんなふうにしてくれる、そんな力があるのかな。
午後の陽射しに包まれて、きみとぼくの前には、
一台の車が停まってる。
今年の春はこの車できみとの思い出をいくつも作ろう。
きみはディープブルーとホワイトのツートンの車に
名前をつけると言いだした。
良い兆候だ。
陽射しはきみとぼくと、そしてこの車にやさしく注いでいる。