Archive for 5月 2017
きみのもしもし #493
久しぶりに訪れたこの境内の木陰で涼んでいると、
ぼくに一台の赤い自転車が向かってきた。
そう言えば、きみは自転車を買ったと言ってたな。
それも赤い色にしたと。
ぼくはそよ風の心地良さを感じながら、
さっき渡された9番のおみくじを開いた。
「もしもし。また大吉なのかな」
聞き慣れた声が前方から聞こえる。
自転車からきみが降りる。
「大吉でも大凶でもいいじゃん」
そして微笑んで近づいてくる。
「あなたがここにいることに意味があるのよねぇ」
そう言って、きみはぼくの隣に腰かけた。
きみのもしもし #492
ーちょっと上を向いて、大股で歩いてみなよ。
近所の境内で森林浴もどきをしていたら、きみからメッセージが届いた。
ーそうすると幸せになれるらしいよ。
ぼくはぼくなりに幸せなんだけどなぁ。
ーあなたがもっともっと幸せになると、わたしもとってもとっても幸せになれるんだから。
頼られてるのを喜んでいいのか、
他力本願に口を挟むべきか。
ーとにかく、ひとりでどこかに行く時間あったら、声くらいかけてよね。
この展開は。。。
ーどこにいるの?わたしはあなたの家のドアの前。
きみはいつまで経っても心配性だね。
ぼくは「ちょっと上を向いて、大股で歩いて」、そして少しだけ足早に
きみの待つ場所に戻ることにした。
きみのもしもし #491
ーI love you, Mam.
映画の中の少年が母親に言っている。
これからはもっと言うね、と言っている。
「言ったことないなぁ」
「いいと思うよ」
「でも、ありがとうは今朝伝えたよ。電話だけどね」
「とってもいいと思うよ。離れていても声が聞ける。素晴らしいね」
ぼくは少しだけ照れくさい。
「もしもし、わたしには?」
「そうだね、いつもありがとう」
きみはゆっくり首を横に振る。
そんなきみに、ぼくは小さくI love youを口にした。
きみのもしもし #490
ーどんなノートを使ってるの?
きみがぼくの手元を覗き込む。
ふつうのノートだよ。
ーそうかなぁ。
どんなノートを使ってるかより、
どんなふうに使ってるかが気にならない?
ーノートを決めると、使い方も決まるでしょ。
ぼくは意識したことないなぁと、
きみにノートを広げてみせる。
ーやっぱり方眼だ。サイズも想像してたよりちょっと大きめ。
綺麗にまとまってるね。と、きみが感心している。
ーもしもし。同じものが欲しいっ。
おねだりされるほどのノートじゃないよ。
もっとオシャレなのもあると思うよ。
それでも、
ーこれがいいの。わたしも綺麗に書けるようになるよね。
と、きみが真剣に言う。
そうだね。それに、いつでもそばにノートがあると楽しいよ。
と、ぼくは笑った。