Archive for 6月 2017
きみのもしもし #497
ー夏祭りをしますっ。
やっと梅雨らしくなった今日、
脈絡もなくきみから知らせが飛んできた。
ー食べるもの、飲みたいもの、なんでも良いので一品なにか持ってくるように。
ほう、なんとなく計画的。
ースイカでも、お蕎麦でも、唐揚げでもいいのよ。
なんだそれ?
ー夏の先取りの夏祭り。
そうだね、沖縄はもう梅雨明けしたし。
ーもしもし、かき氷もお願いね。
一品では済まなそうだな。
ぼくはきみが食べたそうなものを、紙に書き出してみることにした。
きみのもしもし #496
きみが思いっきり笑っている。
口に手を添えたり、添えなかったり。
にこやかな笑顔はよく目にするけど、
今みたいなはちきれんばかりの笑い顔はいつ以来だろう。
それとも初めてかなぁ。
長い付き合いの中、今更ながらに新しい発見か。
と、きみの動きが止まった。
ーもしもし、また何か頭で考えてるでしょっ。
きみはぼくのグラスにワインをどくどくと注ぎ始める。
ー飲も。食べよ。たくさん話そ。
そしてまた満面の笑顔で話を始めた。
きみのもしもし #495
窓ぎわで日向ぼっこをしているきみ。
もう春も終わって、陽射しは夏に向かっている。
ー暑くないのかな。
ぼくはきみのじゃまにならないよう、心の中で話しかける。
きみは音にならないぼくの声が聞こえたように振り返る。
ー確かにちょっとだけ暑いけど、日向ぼっこは大切なのよ。
と、目配せをする。そんな気がした。
「ホットコーヒー頂戴」
おや?想像は違ったね。
「もしもし、ホットだからね」
そんなきみは額にすこしだけ汗をかいていた。
きみのもしもし #494
窓越しに、きみがギャラリーで動く姿が見える。
店内にいるひとりひとりにていねいに何か話をしている。
きちんと相手の顔を見て、
きちんと笑顔で相槌を打って。
今、突然ぼくが入っていくと、少しは動揺するんだろうな。
そしてその後、動きがギクシャクとなってしまうかも。
そう考えて、ドアを開けるのを止めて、
通りからきみの動きを写真に収めてみる。
うん、やっぱりいい顔をしている。
今日はこれで帰ることにします。
お客さんがいないときを見計らって、また来るからさ。
ーもしもしっ。どうして今日来なかったの?
と、言われそうだけどさ。