きみのもしもし #499
「ちっちゃかった頃に好きだったことはなぁに」
きみが覗き込むような視線で聞いてくる。
はたとぼくの動きは止まる。
何が好きだったんだろう。
何がぼくを笑顔にしてくれていたんだろう。
学校に入る前のぼくの記憶。
少しの間。
「おふくろの背中かなぁ」
きみがにっこりと微笑む。
「自転車の後ろに乗って、おふくろの背中に顔を押しつけるのが好きだったな」
そして、きみはゆっくりと頷く。
「いい思い出ね」
確かにね。
きみは声には出さずに「もしもーし」と口ずさむ。
そう言われて、ぼくは少しだけ照れた。
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