きみのもしもし #503
小学生の頃、親父が帰国すると必ず母親に連れられて、親父の船に乗船した。
乗船して、神戸から東京、またはその逆を、船内で過ごした。
甲板に立ち、甲板を歩き、つま先立って甲板から海を見た。
たまに操舵室から先方を見せてもらえることもあった。
狭い廊下でも、天井の低い食堂でも、
見知らぬ大人に親しげに話しかけられたのを覚えている。
みんな優しかった。
一人で勝手に船内を歩いても不安になることはなかった。
あぁ母親だけはいつも心配していたな。
「もしもし、どうしたの?」
今日はきみと古い戦艦の見学ツアーにやって来た。
何も考えずに艦内に入ったけど、
親父の船と一緒だなと、ふと懐かしさがよぎった。
「一緒だ」
つい口にした一言。
不思議そうな顔をしたきみに、当時の母親の面影が重なった。
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