きみのもしもし #505
突然の雷雨は、みんなが楽しみにしていた今年の花火大会をないものにした。
不思議とここの花火大会は毎年直前に大雨に見舞われる。
しかし、打ち上げ開始時間の30分前には何事もなかったかのように雨雲は去り、
「ほら」「やっぱりね」と言いながらみんな河川敷を目指す。
そして花火大会は毎年開催されてきた。
「今年の大会委員さんたちはすごい英断をしたのよ」
早々と大会中止の知らせを耳にしていたきみは、
会場近くのワインバーの席を確保し、ぼくを招き入れた。
「ひとつ判断を間違うと、みんなの思いの行き場がなくなって大変だもの」
ぼくが到着するまでにワインが進んでいるようだった。
「今まで中止ってなかったから、前例作っちゃったし」
ほんのりと頬も赤い。
「ほら、今年は結局雨は上がんなくて」
きみは窓ガラスを濡らす雨を指差す。
そのきみの爪は打ち上げ花火模様に彩られていた。
ぼくは綺麗に彩られたその爪に、
きみがどれだけ花火大会を楽しみにしていたかを知らされる。
「もしもし、どこ見てるのぉ」
来年はきみの思いが、そしてみんなの思いが、空に届きますように。
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