きみのもしもし #506
ずっと眠らせていたカメラにフィルムを入れた。
フィルムを入れるのにひと工夫必要な、1950年代のそんなカメラだ。
いつでも目につくようにデスクの上、右斜め前に置いていた。
そのカメラのシリアルナンバーをあるサイトのハンドル名にしている。
そのくらい愛着のあるカメラ。
そのカメラの埃をきれいに拭き取り、フィルムを入れた。
昨夜のそんなぼくを見ていたきみが、今朝楽しそうに聞いてくる。
「どちらにお出かけ?」
いい表情だ。
きみの問いに答える前にぼくは準備の整ったそのカメラを手に取り、
ファインダー越しにきみを見た。
ピントを合わせる小窓、構図を決める小窓、ふたつの小窓を持つカメラ。
いつもよりシャッターを押すまでにほんのちょっとだけ時が必要。
「もしもし、懐かしいね」
うん。
かつてはこのカメラでどれだけの枚数、きみを撮ったことだろう。
ファインダーの向こうに付き合い始めた頃のきみがいた。
コメントを残す