Archive for 1月 2018
きみのもしもし #528
もっと話せばよかったと。
あのとき、もっともっと話せばよかったと。
うぅん、もっともっともっと、かな。
きみがそんなことを口にする。
大丈夫、ここにいるから。
そんな言葉は気休めだと、きみは首を横に振る。
そう言えば、最近は曇天ばかりだ。
寒空、曇天。空気が空高くまで澄みきっていた記憶がない。
そんなとき、きみは少しだけナーバスになる。
気休めかも知れないけどさ、
でも確かに今ぼくはここにいる。
ここにいてきみと話をしている。
だから、もっと話をしよう。
ねぇ、そうしよう。
きみは幼い子供がうなずくように、
今度は首を縦に振る。
もしもし、あのね。
うん、そうだね。
ぼくらはゆっくりと話し始めた。
きみのもしもし #527
クローゼットの中から、きみが見つけて来たもの。
それがまたきっかけのひとつとなった。
きみが見つけて来たものは、結局そのままきみに預けたけれど。
「なつかしいものを見つけたね」
「使わないとかわいそうでしょ」
きみはそう言って、それをぼくに差し出す。
「もしもし。最近、風景をブックマークしてる?」
しているつもりのぼく。
「なつかしいキャッチコピーだね」
「そうじゃない。以前はもっと枚数多かった気がします」
きみはそう言って、それをぐいと差し出す。
「これポケットに入れてた頃なんて、呆れるくらいに撮ってたじゃん」
言われてみれば、そうかも知れない。
いや、そのとおりだな。
「でも、その気にさせるいいキャッチコピーだったね」
そうだね。その気は大事だな。確かに毎日ブックマークしてた。
そして今ぼくは手持ちの小さなコンデジを毎日持ち歩く。
あの日、手のひらサイズのデジカメを手にしたときと同様に。
きみのもしもし #526
きみは最近よく話をしてくれる。
そんなに話すことあったっけ、
と感心するほどたくさんの話をしてくれる。
急ぎとか、重要とか、その手の話ではなく、
ほとんどすべてが他愛もない話だ。
でも他愛もない話がこんなにもたくさんあったなんて、
最近のきみがぼくに気づかせてくれた。
いつかきっと懐かしく思えるんだろうな、
こんなにも「もしもし、聞いて聞いて」と言ってくるきみがいたことを。
そして、懐かしくて思い出し笑いをしちゃうんだろうな。
それとも、懐かしくて泣けてくるのかな。
以前にも増して話しかけてくるきみを見ていて、
そんなことを思った。
きみのもしもし #525
休日の夜、銀座を歩く。
表通りはインバウンドで溢れている。
ー苦手でしょっ。
きみからのLINEが届く。
どこにいても、どこにいるか、きみにはお見通しなのか。
悪い気はしない。
どちらかと言えば、なんとなくうれしい。
ひとりぼっちも好きだけど、
きみはやはり別格なんだろう。
ーきっとあなたはこの後、あそこに行くのね。
先も読まれている。
そのくらいぼくの行動は単純でワンパターンなんだろうね。
じゃあ、違う行動に出てみるか。
そんなこともしない。
そして、ぼくは裏通りのバーのドアを開ける。
すると、きみがカウンターに座っている。
去年と同じだ。
「もしもし」
きみがハイボールを片手に微笑んでいる。
今年もきみのもしもしから始まった。
良い年になりそうだ。