Archive for 2月 18th, 2018
きみのもしもし #531
ずっと以前、どのくらい以前だったのか、
とにかくずっとずっと、今となってはそのくらいずっと前のこと。
ぼくはきみの誕生日に自分で書いた掌編小説を贈った。
懐かしいな。
若かったんだろう。
でも自信作だった。
陽射しがきみを包む小説。
ぼくの掌編小説の原点なんだろう。
今日、久しぶりにきみと陽当たりの良いカフェに入った。
話が弾んでいつしか、きみの顔が正面から陽射しに包まれていく。
「席を替わろうか」
「うん」
今度はきみの顔の右半分だけが陽射しを受ける。
それをきみは長い髪で遮った。
「もしもし、ね、今度は大丈夫」
「以前もこんなことあったっけ」
きみは笑って答える。
「あの時の小説の中でね」
きみもまだ覚えていたようだ。
少しくすぐったい感じがした。