Archive for 3月 2018
きみのもしもし #536
「もしもし」
きみが意味深な顔をしている。また何かに感化されたのかな。
「タイムスリップで過去に行けるとしたら、いつに戻りたい?」
高校時代かなぁ。
「本当に戻りたい?」
いやぁ、戻れなくてもいいけど。
「けど?」
あの当時はやけに楽しかったなぁってさ。
「今は?」
楽しいよ。また別の気のおけない仲間もいるし。
「いいね」
うん、いいよ。
「よかった」
どうして?
「トイムスリップされてどっか行っちゃうと少し寂しいから」
少し?
「うん、少しね」
大丈夫、行かないよ。ここにいるよ。
きみは満開の桜を見上げて、微笑んでいる。
それを見て、ぼくは思う。
うん、今が一番だな。
きみのもしもし #535
毎日忙しいようだ。
そんな季節なんだろう。
異動があったり、転勤があったり、
退職したり、再就職したり。
そして親しい仲間とは心からの送別会で語らい、
来月からなかなか会えなくなったり。
そんなのがいくつも重なる、
そんな年齢ってのも存在するのかも知れないね。
で、きみに環境の変化はないの?
「もしもし、それはあなた次第かもね」
親しい仲間の見送りで、きみは少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべ、
意味深な問いかけを口にする。
きみのもしもし #534
少し疲れが溜まっていたのか、
お気に入りの器を二つも立て続けに割ってしまった。
どちらも洗っている最中に手から滑り落ちた。
ひとつはプラハに行ったときの自分向けの記念のお土産。
もうひとつはきみがずっと愛用していた器。
困ったなぁのオーラをまとって、キッチンに立っていたら、
「もしもし、ものはね、壊れるの」
きみが横に立っていた。
「ものが壊れないと、新しいものが売れないの」
そして、ニコニコしながら、
「新しいものが売れないと、作ってる人たち、困るでしょ」
割れたかけらを袋に入れ始め、
「だから、割れても気にしなくていいのよ」
怪我はなかったかと聞いてきた。
きみのもしもし #533
今日はどうしてもそのお店できみに会いたかった。
会いたい気持ちが裏目に出たのか、
MINIを使わず、電車で行けばよかったのか、
この少し早めの春うらら、道は混み、思うようにMINIは進まず、
結局、きみが先に行っているそのお店まで閉店までに着けなかった。
「もしもし。でもわたしはちゃんと待ってたでしょ」
今、きみは助手席に座り、春の夕日を浴びている。
ありがとう。会えてよかった。
ぼくは素直に気持ちを伝える。
「でも次は一緒にあのお店に行こうね。壁一面にね素敵な写真がたくさんあるの」
そうだね、次回は必ず一緒に観に行こう。
帰り道、MINIは小気味好いエンジン音を響かせる。