Archive for 5月 2018
きみのもしもし #545
ーどうだった?
うん、よかったよ。
ー心と体、浄化されたんじゃない?
なんだかな、それ。
ーだっていつもそうだもの。
だからたまに帰るんだろうな。
ーいいね、帰れるところがあって。
いつまであるかな。
ーいつまでも、ずっと。
そうだね。
ーそのお返しは何かしてきたの?
肩もみ。
ーいいね。
親父にもたまにやってもらってたって、お袋よろこんでたよ。
ーそりゃそうよ。
あと、神社の裏で一緒にホタルを見た。
ーえっ。
たっくさんのホタルがふわっと飛んでるんだ。
きみが少し間を置いて言った。
ーもしもし。次はわたしも一緒に見たい。
そうだね、来年はそうしよう。
きみのもしもし #544
ーどうしてそんなに何かをやろうとするのかな。
きみがぼくの予定帳をゆっくりめくりながら、不思議そうな顔をする。
きっと貧乏性なんだよ。
ー何かをやってないと落ち着かないの?
そうじゃない。
またきみは不思議そうな顔をする。
次にやることを思いついちゃうんだよね。
ずっと先のことも、この直後のことも。
きみは口を一文字にとじ、首を横に振る。
ーもしもし、たまには全てをオフにしてね。
ぜーんぶオフにするんだよ、ときみはもう一度首を横に振る。
きみのもしもし #543
ふつうが一番大切で、むずかしくて、
一日の生活もふつうに過ごせたら、
それはとても幸せなこと。
昨日と同じように今日を、
今日と同じように明日を、
毎日をそんな風に過ごせたら、
昨日気づかなかったことに今日気付けたり、
そうすると今日はより素晴らしい一日になって、
明日はもっと素晴らしい一日になる。
毎日を同じように過ごすだけで、
毎日が素晴らしい日の連続になる。
「もしもし。いいんだけどさぁ」
そうだね。失礼失礼。
きみと観ているこの映画、いい台詞がたくさん散りばめられてるだよね。
「だからっていちいちメモ取らないっ」
はい。
「あとで感想話そうね」
きみは笑って手元にリモコンを引き寄せた。
きみのもしもし #542
きみが精一杯口を一文字にする。
きみは口を一文字にすると笑窪ができる。
ただし右側だけの片笑窪。
かわゆいんだけど、
これはきみにとってはよろしくない状態の証。
ー失くしたの。
とっても大切にしていたものをどこかに落としたらしい。
一生懸命笑顔を保とうとして、
きみの片笑窪はますます深くなる。
ー言われなくてもわかってる。
そうだね、形あるものはいつかは壊れ、いつかは無くなる。
ー大切な思い出と思いはずっと残るんだもん。
瞬間、きみの笑窪が消えた。
ーもしもし。でもね。でもね。
大丈夫。明日には見つかるよ。
もっともっと思いが深くなるように、
きっときっと明日には見つかるよ。
ー無責任っ。
きみは呆れず怒らず、笑ってくれた。