Archive for 6月 2018
きみのもしもし #549
天気予報を意にも介さない今朝の天気がやっと落ち着いてきた。
いい陽射しだ。
ー全部の部屋の窓を全開にしていい?
もちろん。
きみはリビングと和室の窓を、
ぼくは奥の二つの部屋の窓を。
ついでだ、バスルームの窓とドアも開けよう。
少し湿った風が通り抜けるかと思っていたけど、
思いの外、清々しい風が部屋中を包んだ。
うん?これなら。
ぼくはリビングのエアコンをつけた。
夏に向けての試運転。
でも、少しするときみがシャツを一枚羽織る。
ーもしもしぃ、寒いっ。
うーん、まだ少し気が早かったか。
ぼくはエアコンをオフにして、
きみに熱々の珈琲を淹れることにした。
きみのもしもし #548
ミツバチさんやアゲハ蝶さんが見ている花の色と
わたしたちが見ている花の色は違うのよ。
週末のテレビ番組でそう言っていたと、きみが言う。
それなりに科学的な理由で解説してたけど、
わたしは違うと思うのね。
わたしたちだって人を色眼鏡で見たり、先入観で決めつけたり、
第一印象がずっと引きずったりするじゃない。
きっと虫さんたちはずっとずっと以前に、とってもとっても昔に、
花さんたちと何かあったのよ。
だから今でも花さんたちをわたしたちとは違う色眼鏡で見てる。
ーねぇそう思わない?
そう言ってきみは科学を覆す。
ーそうかもね。
ぼくは少しだけ困ってしまう。
ーもしもし?わたしの言ってること変?
そうじゃあないんだけど。
きみの誕生日にサプライズで部屋を飾った色とりどりの花。
さてこの後、きみはどんなリアクションをするんだろう。
そっちの方がぼくは気になっている。
きみのもしもし #547
ベストセラーになったあの小説のどこかに、
空の写真を病室の天井に張りめぐらせるシーンがあった気がする。
すごく著名な写真家のあの人は奥様が他界した後、
空ばかりを写していたと書いていた。
空ってなんだろう。
ー見ていて飽きないね。
今日は朝からあいにくの雨。
少し肌寒い。
ぼくの淹れた珈琲を両手で包んで、
きみはリビングの窓からどんよりとした空を見上げている。
ぼくはそんなきみの横顔を楽しむ。
ーもしもし。パンケーキ焼いたげよっか。
きみがキッチンに入って、
今度はぼくが空を見上げる。
確かにこんな雨模様の空でも見飽きない。
空ってなんだろう。
ー神様がくれた一番のプレゼントかもね。
キッチンからきみの声が聞こえた。
きみのもしもし #546
きみの姿が見えない。
夢なんだろうな。
そんなことを考えながら、
ぼくは左の部屋のドアを開ける。
そこにももちろんきみの姿は見えない。
どうして、もちろんなんて思ったんだろう。
今度は右の部屋。
きっときみはここにもいない。
そう分かっているのにドアノブを回す。
ーもしもし、ここにいるのに。
きみはずっとそこにいたかのように現れる。
気づかないうちにぼくのそばにいる。
そして笑ってきみはぼくに言う。
ーもう少し寝なさい。
うん。
素直にぼくは夢の中で、もう少しだけ眠りにつく。