Archive for 6月 10th, 2018
きみのもしもし #547
ベストセラーになったあの小説のどこかに、
空の写真を病室の天井に張りめぐらせるシーンがあった気がする。
すごく著名な写真家のあの人は奥様が他界した後、
空ばかりを写していたと書いていた。
空ってなんだろう。
ー見ていて飽きないね。
今日は朝からあいにくの雨。
少し肌寒い。
ぼくの淹れた珈琲を両手で包んで、
きみはリビングの窓からどんよりとした空を見上げている。
ぼくはそんなきみの横顔を楽しむ。
ーもしもし。パンケーキ焼いたげよっか。
きみがキッチンに入って、
今度はぼくが空を見上げる。
確かにこんな雨模様の空でも見飽きない。
空ってなんだろう。
ー神様がくれた一番のプレゼントかもね。
キッチンからきみの声が聞こえた。