Archive for 8月 2018
きみのもしもし #558
今日はとても暑かった。
ぼくらは朝からエアコンをつけ、ずっと写真を見ていた。
ー今日の外出はなしにしよう。
すべての予定を来週に回し、まずはアルバム帳を開いた。
一番古いアルバム帳のページをめくり、
二番目に古いアルバム帳はどれかと探す時間も楽しかった。
お昼ご飯を食べるのも忘れ、ぐぅとお腹の音で笑ってしまった。
もう少しでクラウド上の写真に手が届く。
そのとき、きみが首を横に振る。
「タイムマシーンはここまでにしましょ」
ーそうだね。
ぼくらは床いっぱいに広がっているアルバム帳に目を向けた。
写真は時間を飛び越えることができるタイムマシーン。
最近どこかで目にしたコピー。
きみはそれを憶えていたのかな。
「もしもし、またタイムトラベルしましょうね」
ーうん。
そして、ふと、ぼくは思う。
ところで写真で未来には行けないものか。
きみのもしもし #557
朝目が覚めて、快晴だったら旅に出る。
そんな休日の過ごし方をしてみたいと思った。
「いつでもできるじゃん」
そうじゃないんだ。
ふらりと国際空港に行って、西の方に飛ぶ。
そんな旅。
「できなくはないでしょうけど」
そう、できなくはないんだろうけど。
しがらみがあったり、先立つものがなかったり。
「ひとりで行くの?」
ぼくらは今までそれぞれ、ひとり旅でやってきた。
戻ってきてから、その旅での出来事を伝え合う。
ふたりになるとますますふらりと行けないだろう。
「もしもし、現実的な話をしましょ」
きみがぼくに差し出すスマホには、
年末年始パリ行き航空券のリストが表示されていた。
きみのもしもし #556
「想い出はいくつあっても足りないね」ときみが言う。
人は忘れていく生き物だとよく耳にする。
想い出を100個作っても、いったいいくつ憶えているのだろう。
忘れたくないのに忘れてしまう想い出もある。
「だったらひとつでも多くの想い出を作ろっ」
きみはそう言って、
今日と明日のふたりの共同作業をぼくに伝える。
「もしもし」
「何かな」
「わたしはぜーんぶ憶えているのよ。何ひとつ忘れない」
「そうだね。ぼくもそうだよ」
忘れないために、せめてもの抵抗。
ぼくらはそっと手を繋ぐ。
きみのもしもし #555
東京湾の華火大会がなくなって、もうどのくらい経つのだろう。
オリンピックが終わったら再開するのかな。
同じあの場所で再開するのかな。
違う場所で再開するのかな。
それとももう再開しないのかな。
きっと何も知らないのはぼくらだけなんだろうけど、
いつかまた東京湾できみと一緒に花火を観たいなぁと思う。
「もしもし、なにぼーっとしてるの?」
きみが横から話しかけて来る。
「そろそろ始まる時間でしょっ」
港で打ち上げる花火大会をあれから近郊でいくつか観てきたけれど、
毎年観に来るようになったのは、ここの花火大会。
そもそもここの対象はこの町の方たちだから、
東京湾に比べると規模は当然小さい。
それでもここを観に来始めて3年目ともなると、
ぼくらはぼくらなりに小慣れて来た気もする。
いい花火大会だ。とぼくが言うと、
「頑張ってる花火大会だと思うのよね」
きみはにっこりと笑顔で答え、
夜空に広がった一発目の大きな花火に顔を向けた。