Archive for 4月 2019
きみのもしもし #593
寒い春、また冬物を引っ張りだしていると、
きみが後ろから声をかけてくる。
「もしもし、それじゃあ野暮ったいよ」
寒くても春は春。
ではどうしたものか。
クローゼットの前で腕を組む。
すると割り込んできたきみが手を伸ばす。
「一枚これを持って行けば?」
風邪ひきそうなら腕を通せばいいし。
連休の初日に体調崩したら残りの連休つまんないしね。
きみはカーデガンをぼくに手渡す。
「念のため、アンターウェアはヒートテックかな」
なるほど、それだと見た目は春だね。
ぼくは素直にきみのアドバイスを聞くことにした。
きみのもしもし #592
ー宿題、済んだの?
きみが笑いながら、ぼくのノートを覗き込んでくる。
遊ぼう遊ぼう遊ぼうって覗き込んでくる。
もうすぐ終わらせるから、ちょっとソファで待ってて。
そう言っても、きみはぼくの隣から離れない。
ープレッシャー、プレッシャー。
きみが、早くぅって笑ってる。
今週の宿題はけっこう大変なんだよ。
でもきみは首を横に振る。
ー終わらないものはないのよ。
そして、ぼくの宿題の答えに目を落とす。
ーもしもし、ここ間違ってませんか?
きみはえへんっと腕を組む。
きみのもしもし #591
ー早起きって、とってもいいんだよ。
お酒が入ったきみは少しだけ饒舌。
おいしいお酒とおいしい料理、そしてご機嫌なきみ。
今日は早朝、公園を一周ジョギングしてきたらしい。
ー外人さんも走ってたよ。声かけられた。
ちゃんと英語でやりとりできたと、
きみはくいっとお猪口を空けた。
ー明日も早起きするんだ。
その割には飲んでいると思うなぁ。
ーもしもし、ちゃんと明日は起こしてね。
そう来ましたか。
そんなこんなで久しぶりのきみとの居酒屋、
夜はどんどん更けてゆく。
きみのもしもし #590
ー何かいいこと、あったのかな。
きみは目ざとい。
ちょっとだけね、とぼくは答える。
するときみは首を横に振る。
ーもしもし、隠せないよ、わたしには。
きみはふふふと笑う。
なんだかうれしそうにふふふと笑う。
ー口にすると、今よりもっと現実味が増すよ。
そうだね。
そして、ぼくはきみに伝える。
ーよかったじゃない。行けそうなんだね、夏のパリ。
きみはまたふふふと笑い、
ー会ってみたい人に会えるといいね。
ぼくもつられて、ふふふと笑う。
そうだね、そうなるといいね。
今よりもっともっと現実味が増しますように。