Archive for 5月 2019
きみのもしもし #597
ー心のフィルムに写す。
著名な写真家が、今日そう言っていた。
だからあの日はカメラを持って行かなかったのだと。
あの日が彼にとってどんな日だったのか、
うわべだけ想像することは出来ても、
ぼくには本当に理解することは出来ないんだろうな、と思った。
「もしもし、ぼーっとしてないっ。今日はおニューの夏服だよ」
きみがぼくの目の前でくるりと一回転する。
瞬間、夏色のスカートはふわっと開き、
ぼくだけのバレリーナがそこにいた。
そっか。
今日はカメラをカバンから出さずに、
一秒でも長く、きみを見ていよう。
きみのもしもし #596
きみは毎日をめいっぱい楽しんでるね。
きみを見ていて、うらやましいと思うほどに、
きみは全力で楽しんでいる。
ー今のうちよ。
きみはそう言う。
ーそのうち、やりたくてもできないときが来るんだから。
だからきみは今できることをめいっばいやろうとしている。
ーもしもし、でもね。歳をとらないとできないこともあるみたいよ。
そして続ける。
ーだから元気に歳をとろうね。
そうだね、元気にね。一緒にね。
頷くきみは、また次の予定を立てている。
きみのもしもし #595
「素敵な名前のバーね」と、きみが言う。
「行ってみたい」と、きみが続ける。
いつでもいいよ。
ぼくは答える。
ぼくはいつでも大丈夫。
「もしもし」
きみがいたずらっぽく笑う。
「やっぱり誘うのは男の子からだよ」
きみはふふふと静かに笑う。
「きちんと誘ってね」
頬杖をついてふふふと笑う。
きみのもしもし #594
きみが笑うと季節が変わる。
どこかで耳にしたことのある台詞だけど、
今日はまさにそんな気がした。
GW後半の5月、Tシャツでも汗ばむ陽気。
昨日きみから笑顔の写真が送られてきた。
ーもしもし、お片づけ進んでますかぁ?
うん、今月中には片付くよ。後半はどこか行こう。
ー楽しみだね。
きみは今度はVサイン付きの笑顔の写真を送ってきた。
そして今日GW後半、陽気はがらりと変わった。
きみの笑顔で季節が変わったね。
きみは不思議そうな顔をして、
でもまた笑顔で話を始めた。