Archive for 6月 2019
きみのもしもし #602
友だちではなかったのかも知れない。
ふと思った。
でも、
とってもとっても、そう、とっても大切な人がいなくなった。
彼とのやりとりで、これが最後のやりとりになるんだろうな。
そう思った。
そして今夜、彼はいなくなった。
確かに友だちだったのかも知れない。
でも、やはり大切な人だったんだ。
いなくなって再確認できるなんて、何なんだろう。
「もしもし。飲もっ」
きみが赤ワインを継ぎ足してくれた。
きみのもしもし #601
旅行の準備が進まない。
進まないというより、手もつけていない。
「まだ日はあるじゃん」ときみが笑う。
「せっかちなんだから」と。
でもこのところ忙しく、週中では手をつけられない。
すると準備は週末になって、
でも週末は友だちと約束があったり、
気になる展示会もあったりする。
そう数えると残すところ週末はもうないに等しい。
「もしもしぃ」
きみが腕を組んでいる。
「あれこれ考えるより、今からやればぁ」
だよね。
そしてぼくは重い腰をあげる。
きみのもしもし #600
ぼくは忘れていないよ。
何にもしないときみにいつも言われてるけど。
例えば、レストランの予約、コンサートの誘い、
確かにきみが全部やってくれる。
でも、ぼくは忘れていないよ。
去年の夏、ここのパフェをきみに誘われ、
(あぁ、確かにあのパフェもきみが見つけてきたんだ。)
あの時ウィンドーに飾られていたチョコレートで出来た贈り物を見て
きみが言った一言、ぼくは忘れていないよ。
ーもしもし、どうして今日は会えないの?
うん、ちょっとね。
あのチョコは予約が必要なんだ。
今日予約をしないと二週間後のきみの誕生日に間に合わないんだ。
そう、ちょっとね。
ーじゃあ、来週は会えるのかな。
来週もそして再来週も会えるよ。
きみは今日会えないことに納得がいかないみたいだ。
ふふふ。
たまにはサプライズをしないとね。その準備も必要なのさ。
きみのもしもし #599
幼い頃、すすきの穂で蛍を捕まえていたことを思い出した。
夜、小川の淵ですすきの穂をゆっくり左右に振ると、
たくさんの蛍が穂にくっついてきた。
その蛍をそっと籠に移し枕元に置くと、
柔らかい灯となって、ぼくと母親を包んでくれた。
今夜の蛍放生祭を見にきて、そんな思い出が蘇った。
「ねぇあっちにもいる。あ、こっちにもいた」
きみがそっと耳打ちするように、でも
はしゃいでいるようにもとれる口調でぼくに教えてくれる。
「もしもし、どうしたの、ぼーっとしてる」
ううん、ぼくは首を横に振る。
きれいだなって思ってさ。
そんなぼくらの前を柔らかい灯がひとつ、横切った。
きみのもしもし #598
遠くに行っているきみからたまに連絡が入る。
昨日まで裏の境内のベンチで話をしていたはずなのに、
少し間が空くと、もうどこかに飛んでいる。
そして必ず、
ーもしもーし、あなたもおいでよ。
そう言ってくる。
いいなぁ、きみは鳥みたいで。
行きたいのは山々なんだけど、
ぼくはまだまだしがらみが多そうだ。
ーいつでも待ってるよ。
きみは屈託のない笑顔をメッセージに乗せてくる。