Archive for 6月 9th, 2019
きみのもしもし #599
幼い頃、すすきの穂で蛍を捕まえていたことを思い出した。
夜、小川の淵ですすきの穂をゆっくり左右に振ると、
たくさんの蛍が穂にくっついてきた。
その蛍をそっと籠に移し枕元に置くと、
柔らかい灯となって、ぼくと母親を包んでくれた。
今夜の蛍放生祭を見にきて、そんな思い出が蘇った。
「ねぇあっちにもいる。あ、こっちにもいた」
きみがそっと耳打ちするように、でも
はしゃいでいるようにもとれる口調でぼくに教えてくれる。
「もしもし、どうしたの、ぼーっとしてる」
ううん、ぼくは首を横に振る。
きれいだなって思ってさ。
そんなぼくらの前を柔らかい灯がひとつ、横切った。