Archive for 9月 15th, 2019
きみのもしもし #613
「もしもしっ」と、きみが珍しく低い声で話しかけてくる。
ぼくはちょっと手首に目をやり、そしてきみの目を見る。
「もしもし」
今度は低い上にゆっくりと、そしてぼくの手首に視線を移す。
「わたしと一緒なのにどうしてそれが必要なの?」
きみ曰く、
急に雨が降ろうと、電車が止まろうと、一緒にいるのにそんな情報要らない。
ましてやどこかの誰かさんからのメッセージで、
ふたりの会話を邪魔されたくない。
「ふつうの腕時計でいいじゃん」
さっきからいろんなメッセージを知らせてくれる
このスマートウォッチがぼくらの時間を邪魔している。
確かにね。
きみと一緒にいるときは必要ないね。
ぼくはきみに手首を差し出し、外してもらう。
きみはにっこりと、
「でね、昨日ね」
また新しい話を始めた。