Archive for 11月 2019
きみのもしもし #623
新しいMINIに乗り込み、ドアを閉める。その音。
シートに座り、窓を開ける。
遠くから子どもの笑い声と鳥のさえずりが聞こえる。
少しだけその声に耳を傾け、そして
エンジンに火を入れる。
前のと同じエンジン音のはずなのに、その響きが心を揺さぶる。
そしてきみからの電話の着信音。
ーもしもし、そーゆーのをね。
きみの微笑みまでも音として聞こえてきそうだ。
ー幸せな音って言うんだよ。
なるほどね。
今日は幸せな音に包まれているようだ。
ぼくはゆっくりアクセルを踏み込み、
きみの待つお店へと向かう。
きみのもしもし #622
朝、散歩をする。
旅に出ると朝のふつうの日課になるのに、家にいると週末でもまずやらない。
田舎の実家に戻ると、最後の朝の儀式みたいな感じ。
でも今朝、2階の自分の部屋から見える景色がぼくを朝の散歩に誘った。
ー町中が森林浴って感じだよ。
ーすごいね。
車の音も聞こえない。
人の行き来もない。
ーもしもし、森の中に迷い込んだ感じかな?
おいおい、そこまで山奥じゃないよ。
ぼくは思わず苦笑する。
きみのもしもし #621
きみが憂鬱な顔をしている。
そんな顔のきみを見るのは初めてだ。
どうしたのかな。何か気になる事があるのかな。
きみは憂鬱な顔のまま、
憂鬱そうな目つきでぼくを見上げる。
こんなときはどうしたものか。
ぼくはきみの憂鬱そうな視線から
目を離さないようにして、
そうだっ。
試してみよう。
ぼくはにっこり笑って、
ーもしもし。もしもーしっ。
きみの専売特許できみにささやく。
きみの憂鬱が晴れるように、
何度でも何度でもきみにささやく。
きみのもしもし #620
きみと話していて、ずっと話していて、
そこそこお酒も入っているものだから、
でもぼくの方が飲んでいるものだから、
会話の途中で、オチを忘れてしまう。
それでもきみは笑って頷いてくれる。
「もしもし、それってこういうこと?」
そうかも知れない。うん、きっとそうだ。
そしてまた新しい会話が始まる。
でも不思議だね、時計を見ているわけでもないのに、
オチを忘れるくらいに酔っているのに、
きみが帰れるギリギリの時間には気づいてしまう。
うん、大丈夫。ぼくはぼくでちゃんと帰られから。
今夜はこれ以上、寄り道はしないからさ。
でも、それはそれできみは納得がいかないみたいだ。