Archive for 12月 2019
きみのもしもし #628
うん、今、投函してきた。
すごいんだぜ、郵便ポストがいっぱいで、
別のポストまで行ったんだ。
SNSで年始の挨拶をするのが増えているのに、
不思議なこともあるんだね。
ーどうしてあなたは今日投函したの?
毎年天皇誕生日に書いてたんだけど、
今年は休みじゃなかったから。
ーじゃあ、きっとそのせいよ、ポストがいっぱいだったりも。
ーみーんな、天皇誕生日に書いてたんだね。
なるほど、そうとも言えるのか。
とにかく令和最初の年賀状は元旦には届きそうもないよ。
ーもしもし、それって単なる言い訳だね。
きみはさらりと痛いところを突いてくる。
きみのもしもし #627
海に来ていると言う。正確には海岸か。
小春日和とはもはや言えないが、
それでも日向は暖かい日もある。
そんな中、はやりのヨガで体を整えたらしい。
ーもしもし、貝殻を集めてきたの。
少女のような響きのきみからのメッセージ。
海の音が聞こえてくるような貝殻か。
ーちょっと違うと思う。
ー窓に貝殻を飾るといいことがあるって。
ー来年もね、あなたとわたしと、
ーそしてみんなに、いいことがありますように。
きみの左の掌に乗った貝殻の写真、背景は明るい海。
そうだね、ほんと、みんなにいいことがありますように。
とくにきみとぼくにとって、
とってもとってもいいことがありますように。
きみのもしもし #626
きみがクリスマスプレゼントを渡したいと連絡してきた。
クリスマスの日、逢えないかも知れないものね。
逢えれば逢えたでいいし、逢えないかも知れないことを想定して、
今日夕方そこに来るようにきみは指定してきた。
そこには壁からピアノの鍵盤だけで出ていて、
誰でもいつでもピアノを弾くことができた。
その鍵盤の前に用意されている椅子に腰掛け、
きみはこちらを向いてぼくを待っていた。
「もしもし、いいこと、みんなのピアノだから一度しか弾かないからね」
そしてきみは軽やかに聴いたことのあるクラシックの名曲を弾き出した。
練習したんだね。きっとすごく練習したんだね。
その場限りの、唯一無二のきみからのプレゼント。
ありがたく心に刻んでおくね。
クリスマス10日前、道ゆく人もきみのピアノに足を止めた。
きみのもしもし #625
「とにかくやろうよ」ときみが言う。
「なやんでる時間なんて、もったいないよ」ときみは続ける。
「じっくり考えるのもいいけど、でもね」
「やり続けることでいいこともあるよ」
「きっとあるから」
矢継ぎ早のきみの話を聞いていて、ふと思った。
そういえば、誰かが歌っていたな。
Keep on moving.
そして昔からの言葉、継続は力なり。
「もしもし」
きみはふふふと笑う。
「一休みもありだけどね」
「やってみて、だめだったらやり直せばいいじゃん」
結局どっちなんだろう。
でも、きみはまたふふふと笑う。
きみのもしもし #624
きみとひと言も言葉を交わさずに今日を過ごす。
それぞれがそれぞれに今日1日を過ごす。
いつものように音楽をかけるわけでもなく、
テレビを点けるわけでもなく、
ましてや溜まっているビデオや、YouTubeも流さない。
静かに朝食が並んでいて、お昼はぼくが手を掛ける。
何も変わったことのない1日。
窓越しの日射しだけが少しずつ部屋に入り込んでくる。
そんな1日だから、
きみは「もしもし」も口にしない。
ましてやぼくも待つこともない。
でもこんな日もいいものかも知れない。
そして気づくと、きみが隣で寝息を立てていた。