きみのもしもし #626
きみがクリスマスプレゼントを渡したいと連絡してきた。
クリスマスの日、逢えないかも知れないものね。
逢えれば逢えたでいいし、逢えないかも知れないことを想定して、
今日夕方そこに来るようにきみは指定してきた。
そこには壁からピアノの鍵盤だけで出ていて、
誰でもいつでもピアノを弾くことができた。
その鍵盤の前に用意されている椅子に腰掛け、
きみはこちらを向いてぼくを待っていた。
「もしもし、いいこと、みんなのピアノだから一度しか弾かないからね」
そしてきみは軽やかに聴いたことのあるクラシックの名曲を弾き出した。
練習したんだね。きっとすごく練習したんだね。
その場限りの、唯一無二のきみからのプレゼント。
ありがたく心に刻んでおくね。
クリスマス10日前、道ゆく人もきみのピアノに足を止めた。
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