Archive for 2月 2020
きみのもしもし #636
「ほらぁ、ちょっとよそ見をすると二度とお目にかかれないわよ」
きみがお風呂上がりのバスタオル姿で笑ってる。
いいから、早く着替えちゃいなよ、風邪引くよ。
冷静を装って、にっこり笑って、きみに言う。
きみはきみで、
「もしもし。すべては一度しかない瞬間なのよ、分かってる?」
そう言って、はたはたとバスタオルを揺らす。
あれ?それって誰かの言葉だよね。
舌を出すきみが続ける。
「あなたの大好きな写真家の言葉だよ」
そしてまた、はたはたとバスタオルを揺らす。
きみのもしもし #635
「あきらめたでしょっ」
きみが人差し指でぼくを突く。
そんなつもりはないんだけど、
完全に否定できないぼくもいる。
「あーぁ、自分で限界を作っちゃってさ」
きみが呆れた顔で首を横にふる。
「そんなんじゃ、出来ることまで出来なくなるよ」
そしてきみはペンを取り出した。
「もしもし、これあげる」
差し出された紙にきみが書いてくれたのは英文。
The sky’s the limit.
「さっやろっ」
毎回きみに背中を押されるぼくがいる。
きみのもしもし #634
ー今日からっていいよね。
きみがまた唐突に何かを言い出した。
明日からじゃなくって?
分からない話題にとりあえずボールを返す。
ーうん、今からって言ってもいいんだけど、
ーそれだと何だか気ぜわしいから、だから今日から。
分かったようで分からないような、そんな説明をするきみ。
ー何かやりたいことあるでしょっ。
いくつもあるよ。
ーもしもし。どれかひとつに絞ろう。
ーそして、それを今日からやろうっ。
ーせっかくだから一緒にやろう。ねっねっねっ。
何だか上手に巻き込まれいる気がしないでもないけど。
まっきみと一緒にやるのはいいよね。
ところで、きみは今日からさっそく何をやる気なんだろう。
今のところきみからその説明はまだない。
きみのもしもし #633
「ねぇ歌ってよ」と、きみが言う。
いいよ、と言って口ずさむ。
幼い頃、よく耳にした童謡、たまに不思議と思い出す。
まるで春のように暖かな今日、
思い出した童謡をゆっくり優しく口ずさむ。
ー春よ来い、早く来い。
「もしもし?」
一番を歌い終わったところで、きみが言う。
「昔一緒に歌った?」
目を細め、微笑みながらきみが言う。
そうかもね。
そんなことはないけれど、
まるで春のように暖かな今日、
何となくぼくまでそんな気になった。