Archive for 5月 2020
きみのもしもし #650
ー何を聴いてるの?
斉藤和義だよ。
ーめずらしいね。日本のミュージシャンって。
歌えるよ。
ーいつも音程違ってるからなぁ。
ぼくはスマホに向かって小さく口笛を吹く。
強くなりたい、と口笛を吹く。
懐かしいでしょ、かなり流行った曲だものね。
ーもしもし、じゃあサビのところだけ聞いたげる。
そっか、でもそう言われるとやっぱり照れるなぁ。
きみのもしもし #649
ーきっとあなたが思っているより、時間はたくさんあるのよ。
もしもし、時間がないって、初めから決めつけてるでしょ。ときみは続ける。
ーそんなことないよ。時間はたくさんあるの。
ーこれからもそうだし、今だってきっとそう。
ーだからね、気持ちを軽やかに持って、やっていこうね。
そして、きみは愛らしいまなこでぼくを包み込む。
そうだね、これからは軽やかに生きていこうか。
きみはふふふと微笑んで、ゆっくり大きく頷いた。
きみのもしもし #648
ーリラックスするのはいいことよ。
ー今夜は少し酔いましょう。
そう言ってきみはテーブルに、
にんじん、大根、きゅうり、レタスを並べた。
とくべつな野菜ではなく、どこにでもある野菜。
でもすべて国内の農家さんが育てた野菜。
そしてその真ん中に、ウイスキーの瓶と強めの炭酸水を置いた。
ーもしもし。お酒を飲むときはね、ちゃんと野菜を食べるんだよ。
ーそれも、たくさんたくさん食べるんだよ。
きみはぼくにきゅうり一本そのままを、フォークに刺して差し出した。
きみのもしもし #647
ー笑顔で会える日のために。
スマホの向こうから、きみがささやく。
もしもしと一緒に、暖かく包み込むように、きみがささやく。
きみの言葉は、魔法の言葉となってぼくに届く。
どんな一日だって意味はある。
だから、そうだね、笑顔で会える日のために。
スマホの向こうのきみはちょこんと頷き、
また繰り返す。
ー笑顔で会える日のために。
うん、そして笑顔で会おうね。
きみのもしもし #646
早くきみと抱きしめあいたいね。
きみは少し間を置いて、
ー何言ってんだか。
はにかみながら、言った。
きみの電話口からの声に、ぼくはそう感じた。
もう一度言うよ。
早くきみと抱きしめあいたいね。
きみはまた少し間を置いて、
ーもしもし、もう一回言って。
今度はしっかりと、そう言った。
何度でも言うよ。
早くきみと抱きしめあいたいね。