風、空、きみ

talk to myself

Archive for 3月 2021

きみのもしもし #693

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 虹が出ていたときみが言う。
ーもしもし? 言えない?
 うん、思い出せない。
ー七色だよ。
 それは知っている。
 でも、七色をそらで言えない。
ー外側から言うよ。
 きみはすらすらと赤から藍色までを口にした。
 いちばん内側は紫だね。ぼくは自慢げに言ってみた。
ーそう。よくできました。
 そしてきみは、きれいな虹の写真を送ってきた。

Written by ken1

2021/03/28 at 18:39

カテゴリー: kiss

きみのもしもし #692

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 ぼくはきみに電話をしようと思う。
 SNSは使わずに、全部電話にしようと思う。
 これから先ずっと電話にするのは無理だろうから、
 今日一日だけを電話にしよう。
 ぼくからのそんな電話を受けて、
 きみがキョトンとしている様子が、
 受話器越しに伝わってくる。
 とくにこれと言った理由はないんだけど、
 ただ、きみの声が聞きたいだけ。
 ちょっとだけのふたりの沈黙の後、
ーもしもし。わたしも今日はそうする。
ー生の声っていいものね。
 きみの声が弾んでいた。

Written by ken1

2021/03/21 at 18:49

カテゴリー: kiss

きみのもしもし #691

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「時とともに愛する人を見つめることを忘れてはいないか?」
 朝、テレビを観ていたら、画面の向こうからそう問いかけられた。
 忘れてはいない。
 それがきみであれ、お袋であれ、
 忘れてはいない。
 夕方、川沿いをジョギングしていると、
 ひと組のカップルが手を繋いで歩いていた。
 忘れてはいないけど、久しくお袋をハグしていない。
 以前ハグした時の照れた、でもうれしそうな顔を思い出した。
ーもしもし、もう少しの辛抱だよ。
 夜、きみは淹れたての珈琲をぼくに差し出してくれた。

Written by ken1

2021/03/14 at 19:40

カテゴリー: kiss

きみのもしもし #690

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ーストーリーが大切なのよ。
 きみがまた自慢げにぼくの目を見つめる。
ー何をやるにもストーリーが大事なの。
ーストーリーをイメージすること、
ーいっつもそれを考えること。
ーそしてストーリーをなぞって行くの。
 きみが珈琲片手に力説する。
 確かに着眼点はいいな、と腕を組んで聞いていると、
ーもしもし、ハッピーエンドだよ。
ーイメージするストーリーはぜんぶハッピーエンドなんだからね。
 そうだね。
 ぼくは腕を解いて大きく頷いた。

Written by ken1

2021/03/07 at 19:16

カテゴリー: kiss

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