Archive for 8月 2021
きみのもしもし #715
きみは、受け売りだよ、と言いながら言葉を続ける。 ーそうだなって思ったの。大切だなって感じたの。 ぼくは少し身を乗り出してしまう。 ーおはようってね、今日も一緒に生きていくためのおまじない。 ーおやすみってね、みんなが安心して眠るためのおまじない。 ーもしもし、そんな風に考えたことあった? ぼくは優しい気持ちになって、 でもほんの少しだけどこか寂しさを感じながら、首を横に振る。 おはようもおやすみも、 言える相手がずっとずっとそばにいるといいね。
きみのもしもし #714
おいしい食事ができる、 それだけで今日は幸せになれる。 おいしい食事がたくさん出てくる、 なんだかうれしくなる。 そして、 おいしい食事がきみと一緒にとれる、 いつもと変わらない日々かも知れないけれど、 いつもと変わらないことも幸せなことだと思う。 「もしもし、わたしはここにいるよ、お料理頑張ってるよ」 そうだね、 きみが作ったおいしい食事、 それだけで今日も幸せになれる。
きみのもしもし #713
話ができなくてもいいんだ。 そこにいてくれるだけでいいんだ。 顔が見えてなくてもいいんだ。 本当にそこにいてくれてる感じがするよ。 話ができなくてもいいんだ。 静かに聞いてくれている、そんな感じがするよ。 「もしもし。そろそろ送り火焚こう」 そうだね。今年もたくさん喋ったんだよ。 「うん」 きみは優しく頷いた。
きみのもしもし #712
「一等賞ってすごいね、二等賞もすごいね、三等賞だってすごいね。 でもね、参加できるってもっとすごいね」 きみがテレビに釘付けになっている。 「いろんな涙があるけど、どれもすごいな」 国を超えて、きみは拍手を贈っている。 きみが少しだけ声を強める。 「私もがんばらなくっちゃ」 そして笑いながらぼくを見る。 「もしもし。一緒に応援しよっ」
きみのもしもし #711
退屈っていいことかも知れない。 何もしないで一日を過ごす。 朝起きて、珈琲を入れて、パンを焼く。 きみの顔をぼーっと見る。 お風呂に入って、床に就く。 そんな一日をきみと過ごす。 きみはきみで途中たっぷりとお昼寝をする。 「もしもし」 うん、いいよ、珈琲の追加だね。 ぼくはグラインダーで豆を挽く。