風、空、きみ

talk to myself

Archive for 9月 2021

きみのもしもし #719

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ー紐がね、こんがらがっちゃった。
 何をどうやったらこんなになるんだろうね。
 ぼくは笑ってしまう。
 きみは「わたしじゃないもん」って顔をしてるけど、
 きみとぼくしかいないんだから、ねぇ。
ーもしもし。こんがらがっちゃったの。
 きみはそれしか言わない。
 大丈夫だよ。ぼくはね、ほどくのが得意だから。
 きみはぼくの横にちょこんと座り、
 少しずつほどけていく様を見ている。
 もう少し待っててね。
 きみはこくりと頷いて、ぼくの指先を見ている。
 

Written by ken1

2021/09/26 at 22:53

カテゴリー: kiss

きみのもしもし #718

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ーちょっといいことがあったから、自慢してもいぃい?
 きみが遠慮がちに聞いてくる。
 胸張って自慢すればいいのに。
ーもしもし。ひとの自慢話なんてねぇ。
 きみは笑っている。
 そうだね。そうかも知れないね。
 ぼくは苦笑する。
 で、何があったの?
ーちょっとね。
 きみはうれしそうに笑っている。

Written by ken1

2021/09/19 at 18:50

カテゴリー: kiss

きみのもしもし #717

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「子供の頃のこと、思い出せる?」
 思い出せるよ。
「じゃあ、一番最初の思い出は?」
 ぼくははたと困ってしまう。
 親父との風呂、お袋の背中。
 ひとつを思い出すと、
 もっと以前の思い出があるはずだと、
 どうしても最初の記憶に辿り着けない。
「もしもし。それが普通なのよ」
 きみはきっと正しいんだろうね。
 でも、今夜はもう少し思い出してみるよ。
 なんとなく、忘れたままじゃ寂しい気がした。
「わたしも思い出してみようかな」
 今夜は長い夜になりそうだ。
 
 

Written by ken1

2021/09/12 at 21:21

カテゴリー: kiss

きみのもしもし #716

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 空を見上げて歩こうとしていた。
 毎日同じ雲はない。いろんな表情を見せてくれる。
 空を見上げていると、大概のもやもやはどうでもいい事のように思える。
ーもしもし、足元見てる?
 きみが指さす先には、アスファルトから芽を出して
 ちっちゃな蕾までつけている草があった。
 空ばかり見ていたら、足元の息吹に気づかなかった。
ーこんなところでもちゃんと花を咲かせるんだね。
 そうだね。頑張ってるね。
 これからは空ばっかりじゃなくて、
 足元にも目を配ろう。
 するときみは首を横にふる。
ーふつうにのんびり歩けばいいんじゃない。
 そっか、確かにね。
 ぼくらは手を取り歩き始めた。

Written by ken1

2021/09/05 at 18:39

カテゴリー: kiss

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