Archive for 7月 2022
きみのもしもし #763
ー偶然がすべてだと思わない? よく分からないけど、思わないよ。 ーあなたと出会ったのも偶然。 いやいや、必然だろう。 ー偶然よ。 そしてきみは世の中の色んな発見について語り出す。 ーもしもし、だからね。 偶然に出会うためには、 色んなことをたくさん試すことが、 試し続けることが大切なんだと。 ぼくの偶然と少し違う気もするけど、 それはそれで大切なことなんだろうなとぼくも思う。
きみのもしもし #762
一日の終わりにきみがにこやかにぼくを呼ぶ。 何だろう。 「明日はね、今日と違う自分になるんだよ」 ぼくがキョトンとしていると、 「放っておいてもならないからね」 きみは腕を組む。 「自分自身でより良い自分に変えるんだよ」 「明日だけじゃなくて、毎日ね、一日も欠かさず」 大変そうだなぁ。 「もしもし、ものすごく大変に決まってるじゃん」 きみは何だかわくわくしている。
きみのもしもし #761
夜遅くビールを口にする。 今日は昼間からずっとビールを飲んでいた。 「どう?会えた?」 うん、会えた気がした。 彼は殊の外、ビールが好きだった。 一年前の枕元にもビールがたくさん並んでいた。 そして今年も祭壇には所狭しとビールが用意されていた。 「もしもし。わたしにも一口頂戴」 一度だけ彼に会ったことのあるきみもビールを口にする。 祭と書かれた一周忌は、みんなの笑顔に包まれて幕を閉じた。 彼の写真に向かって2年後にまたビールを飲もうと約束をして。
きみのもしもし #760
「あなたと会って、何となくおしゃべりをする時間。 そういう何気ないひとときがいちばん好き」 静かにきみがぼくに答える。 エアコンの音だけがぼくらを包む。 ーいちばん好きな時間ってどんな時間? きみがぼくに尋ねて、きみがぼくに答えた。 「もしもし、あなたはどう?」 ぼくは照れくさくて何も答えず、 きみの顔を見ている。
きみのもしもし #759
きみがぼくに本を読んで聞かせてくれる。 なぜだか偶にあること。 ぼくは幼い頃の感じに包まれながら、 きみの読む話に耳を傾ける。 ーぼくの大好きなあの人がちゃんと幸せだったらいいな。 ー少なくとも今、あの人が笑っていればいいな。 読み終えたきみがぼくの目を見る。 「もしもし、わたしもそう思う」 そうだね、ぼくもそう思う。 そしてぼくらは、それぞれの人に思いを馳せる。