Archive for 8月 2022
きみのもしもし #767
雨の中、久しぶりに車を使った。 彼に渡すものがあった。 どうしても今日じゃなければ、と思った。 彼と知り合ってからの彼の写真。 ぼくの手元に350枚はゆうに超えるストックがあった。 それを1枚残さずフォトブックにした。 ーもしもし。驚かれたでしょ。 うん、でもよろこばれた。 受け取ってくれたお姉さんは、 フォトブックを遺影の前に置いてくれた。 フォトブックの1ページめの写真が遺影になっている。 やっと彼との約束を果たせて気がした。
きみのもしもし #766
お盆前の茹だるような暑さが和らぎ、 朝夕は肌に触れる空気も少しひんやりと感じるようになった。 ーもしもし、お散歩行こうっ。 きみからチャットが入る。 あの橋の畔で待ち合わせしようか。 少し間をあけて、 ー数寄屋橋? と、きみからの返信。 たまに思うのだけど、その博学はどこから来るのだろう。 そしてぼくは近くの橋をきみに伝えた。
きみのもしもし #765
-もしもし、今日は何してたの? 水出しの玉露を嗜んできたんだ。 大袈裟なものでもなく、 正式な場とも言わないだろうけど。 お茶を飲む、そうじゃなかった。 小さなお猪口ほどの茶碗に ぽとりぽとりとゆっくりと落とされる。 そして口の中で清いものが四方に広がり、 全くの別世界に包まれる。 慌ただしい昨今、こんな時間の使い方が きっと心にも体にも良いんだろうね。 きみは静かに頷きながら聞いている。
きみのもしもし #764
ーわたしってセンスないのよねぇ。 ポロリときみが口にする。 センスがない人なんていないよ、 とぼくが言ってもきみは首を横にふる。 経験がほんの少し足りないだけだと、 少しでも好奇心があって、 それを勉強したりしてると、 センスって手に入ると思うよ。 ーもしもし、勇気づけてる? ぼくは笑って首を横にふる。 好奇心が全てだと思うな。 きみは少しだけ笑顔を見せる。