Archive for the ‘kiss’ Category
きみのもしもし #625
「とにかくやろうよ」ときみが言う。
「なやんでる時間なんて、もったいないよ」ときみは続ける。
「じっくり考えるのもいいけど、でもね」
「やり続けることでいいこともあるよ」
「きっとあるから」
矢継ぎ早のきみの話を聞いていて、ふと思った。
そういえば、誰かが歌っていたな。
Keep on moving.
そして昔からの言葉、継続は力なり。
「もしもし」
きみはふふふと笑う。
「一休みもありだけどね」
「やってみて、だめだったらやり直せばいいじゃん」
結局どっちなんだろう。
でも、きみはまたふふふと笑う。
きみのもしもし #624
きみとひと言も言葉を交わさずに今日を過ごす。
それぞれがそれぞれに今日1日を過ごす。
いつものように音楽をかけるわけでもなく、
テレビを点けるわけでもなく、
ましてや溜まっているビデオや、YouTubeも流さない。
静かに朝食が並んでいて、お昼はぼくが手を掛ける。
何も変わったことのない1日。
窓越しの日射しだけが少しずつ部屋に入り込んでくる。
そんな1日だから、
きみは「もしもし」も口にしない。
ましてやぼくも待つこともない。
でもこんな日もいいものかも知れない。
そして気づくと、きみが隣で寝息を立てていた。
きみのもしもし #623
新しいMINIに乗り込み、ドアを閉める。その音。
シートに座り、窓を開ける。
遠くから子どもの笑い声と鳥のさえずりが聞こえる。
少しだけその声に耳を傾け、そして
エンジンに火を入れる。
前のと同じエンジン音のはずなのに、その響きが心を揺さぶる。
そしてきみからの電話の着信音。
ーもしもし、そーゆーのをね。
きみの微笑みまでも音として聞こえてきそうだ。
ー幸せな音って言うんだよ。
なるほどね。
今日は幸せな音に包まれているようだ。
ぼくはゆっくりアクセルを踏み込み、
きみの待つお店へと向かう。
きみのもしもし #622
朝、散歩をする。
旅に出ると朝のふつうの日課になるのに、家にいると週末でもまずやらない。
田舎の実家に戻ると、最後の朝の儀式みたいな感じ。
でも今朝、2階の自分の部屋から見える景色がぼくを朝の散歩に誘った。
ー町中が森林浴って感じだよ。
ーすごいね。
車の音も聞こえない。
人の行き来もない。
ーもしもし、森の中に迷い込んだ感じかな?
おいおい、そこまで山奥じゃないよ。
ぼくは思わず苦笑する。
きみのもしもし #621
きみが憂鬱な顔をしている。
そんな顔のきみを見るのは初めてだ。
どうしたのかな。何か気になる事があるのかな。
きみは憂鬱な顔のまま、
憂鬱そうな目つきでぼくを見上げる。
こんなときはどうしたものか。
ぼくはきみの憂鬱そうな視線から
目を離さないようにして、
そうだっ。
試してみよう。
ぼくはにっこり笑って、
ーもしもし。もしもーしっ。
きみの専売特許できみにささやく。
きみの憂鬱が晴れるように、
何度でも何度でもきみにささやく。
きみのもしもし #620
きみと話していて、ずっと話していて、
そこそこお酒も入っているものだから、
でもぼくの方が飲んでいるものだから、
会話の途中で、オチを忘れてしまう。
それでもきみは笑って頷いてくれる。
「もしもし、それってこういうこと?」
そうかも知れない。うん、きっとそうだ。
そしてまた新しい会話が始まる。
でも不思議だね、時計を見ているわけでもないのに、
オチを忘れるくらいに酔っているのに、
きみが帰れるギリギリの時間には気づいてしまう。
うん、大丈夫。ぼくはぼくでちゃんと帰られから。
今夜はこれ以上、寄り道はしないからさ。
でも、それはそれできみは納得がいかないみたいだ。
きみのもしもし #619
欲しいものは何?
「靴がいいな。素敵な靴がいい」
素敵な靴は素敵なところに連れていってくれるから。
と、きみが続ける。
きみにとっての素敵なところはどこなんだろう?
「また来たくなるような、何回でも来たくなるような、
そんな魔法をかけてくれるところ」
うーん、どこだろう。
「大丈夫、素敵な靴が教えてくれるから」
「もしもし。うふふ」
きみが微笑む。