風、空、きみ

talk to myself

Archive for the ‘kiss’ Category

きみのもしもし #614

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 きみがぼくの名前をいつも以上に口にする。
「もしもし、あのね」
 そのあとに、ぼくの名前をくっつける。
 いつもだったら互いに「きみ」で呼んでいるのに。
 今夜のきみは、ぼくの名前をきちんとくっつける。
 そのことに気づいたけど、ぼくまできみの名前を口にするのは、
 ちょっと気恥ずかしい。申し訳ないけどさ。
 そんなことは気にもしていない今夜のきみは、
 ひとつのフレーズを話すのに、ぼくの名前を必ず一回は口にする。
 お酒も入って、いつもより少し饒舌な今夜のきみ。
 いったい今夜は何回名前を呼ばれるんだろう。
 ぼくはなんだかとってもくすぐったい。
 うれしいんだけどさ。

Written by ken1

2019/09/22 at 19:58

カテゴリー: kiss

きみのもしもし #613

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「もしもしっ」と、きみが珍しく低い声で話しかけてくる。
 ぼくはちょっと手首に目をやり、そしてきみの目を見る。
「もしもし」
 今度は低い上にゆっくりと、そしてぼくの手首に視線を移す。
「わたしと一緒なのにどうしてそれが必要なの?」
 きみ曰く、
 急に雨が降ろうと、電車が止まろうと、一緒にいるのにそんな情報要らない。
 ましてやどこかの誰かさんからのメッセージで、
 ふたりの会話を邪魔されたくない。
「ふつうの腕時計でいいじゃん」
 さっきからいろんなメッセージを知らせてくれる
 このスマートウォッチがぼくらの時間を邪魔している。
 確かにね。
 きみと一緒にいるときは必要ないね。
 ぼくはきみに手首を差し出し、外してもらう。
 きみはにっこりと、
「でね、昨日ね」
 また新しい話を始めた。

Written by ken1

2019/09/15 at 22:29

カテゴリー: kiss

きみのもしもし #612

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ーもしもし。
 と、きみが少し小さな声で聞いてくる。
 きみには珍しく、世の中の愛の違いを聞いてくる。
 ぼくにもよく分からないな。
 するとまたきみは聞いてくる。
ーもしもし。
 じゃあ、男女の愛と両親の愛、このふたつの愛の違いはなぁにと聞いてくる。
 ぼくはちょっと天井を見あげる。
 そうだなぁ、男女の愛と違って、両親の愛は無償の愛なんだろうね。
 だから、愛の色が違う気がするよ。色っていうより手触りかなぁ。
 ぼくはきみをますます迷宮に迷い込ませたみたいだ。

Written by ken1

2019/09/07 at 20:34

カテゴリー: kiss

きみのもしもし #611

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 きみが両手を使ってスマホに文字を打つ。
 片手だとこの画面のサイズでは指が届かないらしい。
 でも、とても器用に、とてもスピーディに文字を打つ。
 きみは笑いながら、ぼくと指を重ねる。
 大して指の長さは変わらないのにね。
 ぼくも笑いながら、重ねたきみの指を見る。
「もしもし、どお?」
 そして、きみは自慢げにぼくに指を見せる。
 きれいな爪の形をしているなぁ。
 ぼくはそっちに気を奪われる。

Written by ken1

2019/09/01 at 19:49

カテゴリー: kiss

きみのもしもし #610

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「魔法ってあるのかなぁ」
 きみが真顔で聞いてくる。
 ドラえもんのポケットは魔法じゃないしなぁ。
 昔々、魔法使いサリーってアニメがあったけど。
 きみは不思議な顔をする。
「もしもし、現実の話で」
 そして、
「人と人が理解しあえるようになる魔法があるといいな」
 きみが真顔で口にする。
 そうだね、そんな魔法があるといいね。
 理解できなくても、
 相手を思う心が芽生える魔法があるといいね。
 きみの真顔にふとそんなことを思った。

Written by ken1

2019/08/25 at 20:29

カテゴリー: kiss

きみのもしもし #609

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 乗り換えの駅で、きみに降ろされた。
 きみがにっこり笑って手を振っている。
 終電間近。
 記憶はここまで。
 朝、目が覚めて枕元のスマホを手繰り寄せる。
 きみから乗り換え案内の検索結果が届いていた。
 そしてぼくもちゃんと返信をしている。
 そうか、昨夜はこうやって帰宅したんだ。
ーもしもし、今日はゆっくりおやすみなさい。
 日付が変わった直後のきみからのメッセージ。
 久しぶりに時間を気にせず楽しめた。
 いい時間だったな。ありがとう。
 窓を開け放ち、朝の空気を取りこんで、
 ぼくはもう一眠りすることにした。

Written by ken1

2019/08/18 at 21:39

カテゴリー: kiss

きみのもしもし #608

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 昔の人はよく言ったものだ。
ー親孝行、したいときには親はなし。
 親父の時から分かっているはずなのにね。
 それなのについ、まだ大丈夫って思ってしまう。
 時に終わりはあるはずなのに。
 何の根拠もなく、まだ大丈夫って思ってしまう。
 それは田舎のお袋に対してだけではなく、
 きみに対しても、まだ大丈夫って思ってしまう。
「もしもし、どうしたの?」
 珈琲に口もつけず、きみをただじっと見ていたら、
 そうだよね、不思議に思うよね。
 どうもしない。ただ。
「ただ?」
 もっと話そうか。呆れるくらいに話そうか。
 そしてまた、きみは不思議な顔をする。

Written by ken1

2019/08/11 at 17:42

カテゴリー: kiss

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