風、空、きみ

talk to myself

きみのもしもし #593

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 寒い春、また冬物を引っ張りだしていると、
 きみが後ろから声をかけてくる。
「もしもし、それじゃあ野暮ったいよ」
 寒くても春は春。
 ではどうしたものか。
 クローゼットの前で腕を組む。
 すると割り込んできたきみが手を伸ばす。
「一枚これを持って行けば?」
 風邪ひきそうなら腕を通せばいいし。
 連休の初日に体調崩したら残りの連休つまんないしね。
 きみはカーデガンをぼくに手渡す。
「念のため、アンターウェアはヒートテックかな」
 なるほど、それだと見た目は春だね。
 ぼくは素直にきみのアドバイスを聞くことにした。

Written by ken1

2019/04/29 at 09:47

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きみのもしもし #592

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ー宿題、済んだの?
 きみが笑いながら、ぼくのノートを覗き込んでくる。
 遊ぼう遊ぼう遊ぼうって覗き込んでくる。
 もうすぐ終わらせるから、ちょっとソファで待ってて。
 そう言っても、きみはぼくの隣から離れない。
ープレッシャー、プレッシャー。
 きみが、早くぅって笑ってる。
 今週の宿題はけっこう大変なんだよ。
 でもきみは首を横に振る。
ー終わらないものはないのよ。
 そして、ぼくの宿題の答えに目を落とす。
ーもしもし、ここ間違ってませんか?
 きみはえへんっと腕を組む。

Written by ken1

2019/04/21 at 21:04

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きみのもしもし #591

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ー早起きって、とってもいいんだよ。
 お酒が入ったきみは少しだけ饒舌。
 おいしいお酒とおいしい料理、そしてご機嫌なきみ。
 今日は早朝、公園を一周ジョギングしてきたらしい。
ー外人さんも走ってたよ。声かけられた。
 ちゃんと英語でやりとりできたと、
 きみはくいっとお猪口を空けた。
ー明日も早起きするんだ。
 その割には飲んでいると思うなぁ。
ーもしもし、ちゃんと明日は起こしてね。
 そう来ましたか。
 そんなこんなで久しぶりのきみとの居酒屋、
 夜はどんどん更けてゆく。

Written by ken1

2019/04/14 at 19:24

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きみのもしもし #590

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ー何かいいこと、あったのかな。
 きみは目ざとい。
 ちょっとだけね、とぼくは答える。
 するときみは首を横に振る。
ーもしもし、隠せないよ、わたしには。
 きみはふふふと笑う。
 なんだかうれしそうにふふふと笑う。
ー口にすると、今よりもっと現実味が増すよ。
 そうだね。
 そして、ぼくはきみに伝える。
ーよかったじゃない。行けそうなんだね、夏のパリ。
 きみはまたふふふと笑い、
ー会ってみたい人に会えるといいね。
 ぼくもつられて、ふふふと笑う。
 そうだね、そうなるといいね。
 今よりもっともっと現実味が増しますように。

Written by ken1

2019/04/07 at 19:55

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きみのもしもし #589

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 三寒四温とはよく言ったものだなぁと毎年思う。
 春はもうそこまで来ているのに、
 毎年律儀に寒くなったり暖かくなったり。
ーでもね。
 きみは若い桜の木を見ながら話をする。
ーこの木たちもきっと花を開くタイミングを覚えるんだよ。
 タイミング?
ーこの時期は暖かくなったり、寒くなったりするものだと覚えるの。
 そして、みんなが愛でるタイミングもね、と。
ーだから、年輪を重ねた大木の桜は今日みたいな寒い日でも、
 もう咲く時期なんだって知っていて、きちんと花を開いているでしょ。
 先方に見える大きな桜の木をきみは指差した。
 そうかなぁ、陽当たりなんじゃないかなぁ。
ーもしもし、私の言うこと、信じなさいっ。
 きみは別の神社の桜の木で、持論を証明するらしい。

Written by ken1

2019/03/31 at 19:41

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きみのもしもし #588

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ー忘れたんでしょっ。
 その通り。
 いつもは便利だし、それが当たり前なんだけどね。
ー最近はなんでもそうね。
 ぼくは今日、スマホを家に忘れたまま外出をした。
 忘れたことに気づいた時には外出先での用事が進んでいて、
 その用事が済むまでは家に戻れない。
 そしてその用事は思いの外、時間を要し、
 きみとの待ち合わせの時間を大幅に超える。
 やっと帰宅すると、幾つものメッセージや着信の履歴があった。
 もちろんきみからの。
ーもしもし?ところで、わたしの番号、そらで言える?
 言えなきゃいけないんだろうけど、
 はたと思い出せないぼくだった。

Written by ken1

2019/03/24 at 19:57

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きみのもしもし #587

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 きみからの突然のお知らせ。
 今日、仕事を辞めたと言う。
 どうするのかな。
「ちょっとひと休み」
 きみは一点の曇りも感じさせないクリアーな響きで、そう答えた。
 そのあとは?
「おっきな方向性はあるけど、細かいところはゆっくり考えるわ」
 ブレのない感じが口調から伝わってきた。
 会えるかな。
「もしもし。いつでも会えるわよ」
 きみはふふふと笑みを浮かべ、
「以前、あなたがひと休みしたときも、わたしはあなたと会ってたじゃない」
 立場があのときの逆になっただけ、だからいつでも会えるのよ、
 と、きみはゆっくり微笑んだ。

Written by ken1

2019/03/17 at 19:46

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